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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)4721号 判決

原告

吉中良子

ほか二名

被告

寳田慶

ほか一名

主文

一  被告らは、連帯して原告吉中良子に対し金四八二万七六一九円及びこれに対する平成三年六月二八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、連帯して原告吉中啓及び同吉中和彦に対し、各金二四一万三八〇九円及びこれに対する平成三年六月二八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らの被告らに対するその余の請求は棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その七を原告らの、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は第一項、第二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、連帯して、原告吉中良子に対し金二一五三万九七三五円及び右金員に対する平成三年六月二八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

被告らは、連帯して、原告吉中啓及び同吉中和彦に対し各金一〇二三万〇九七五円及び右金員に対する平成三年六月二八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、直進中の普通貨物自動車が、前方に停車中の普通貨物自動車(トラツク)のドアに衝突し、停車車の運転手が死亡したものであるが、どのような態様で右運転手と衝突したのかが明確でなく、その点が争われた事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故の発生

(1) 発生日時 平成三年六月二八日午後一一時一九分頃

(2) 発生場所 大津市南志賀一丁目一八番地先国道一六一号線西大津バイパス上

(3) 関係車両 被告寳田慶(以下「被告寳田」という。)運転、被告開原真紀子(以下「被告開原」という。)所有の普通貨物自動車(京都四〇も四二三九、以下「被告車」という。)

2  損害の填補

原告らは、自賠責保険から金三〇〇〇万五一五五円、被告寳田より四万九三三〇円、労働者災害補償保険法に基づく保険金のうち葬祭料として九万八七四〇円、遺族特別支給金三〇〇万円及び遺族補償年金一八三万〇〇五〇円の各支払いを受けているが、遺族特別支給金については損益相殺の対象にはならない、と主張する。

二  争点

1  過失、過失相殺

(1) 原告の主張

前記交通事故の発生場所(以下「本件道路」という。)で、亡吉中敏和(以下「亡敏和」という。)は、運転していた普通貨物自動車(なにわ一一か九四四〇、以下「原告車」という。)が故障したので、実況見分調書添付の交通事故現場図(乙一、以下「現場図」という。)記載の凹部(以下「避難所」という。)に原告車の前部を北に向けて停車し、一旦、運転席のドアを開けて下車したうえ、原告車を点検した後に運転席に戻ろうとしたところ、被告寳田は、被告車を運転して南から北に進行し、電話ボツクスを探しながら進行していたが、避難所の中に電話ボツクスがあつたことから、避難所の方に被告車を寄せようとしたものの、すぐ前に原告車が停車していたこともあつて、被告車を停車させずに進行し、原告車の右ドア付近にいた亡敏和に衝突させたものである。

(2) 被告らの主張

本件事故は、被告車が駐車中の原告車の側方を通過しようとしたところ、亡敏和が、飲酒し酩酊した状態で突然右ドアを開けて降車しようとして被告車に衝突させたものであり、被告寳田には事故回避の可能性がなく、過失はない。

原告らは、亡敏和が車の点検のため降車し、その後運転席に戻ろうとした際に発生した事故であると主張するが、もしそうだとすると、亡敏和がドアのところに歩いて行き、ドアを開けて乗り込むという動作が必要であるが、被告らが、それを見落としたとは到底考えられないし、また、亡敏和が酒に酔つぱらつていたとはいえ、被告車の接近中にもかかわらず、その直前でドアを開けたとも考えられず、結局、亡敏和が背中から転げ落ち(または、転げ落ちるように降り)たと推認される。

仮に、被告寳田に過失があるにしても、亡敏和にも八〇パーセント以上の過失があり、過失相殺をしたうえで損害の填補額を損益相殺すると損害額の残余はなく、原告らの請求は棄却されるものである。

第三争点に対する判断

一  本件事故の経過

1  証拠(甲一乃至一〇、一一の一乃至の五、一二、一三、乙一乃至四、五の一乃至五、六、七、検乙一、二、原告吉中良子、被告寳田及び同開原各本人)によれば、以下の事実が認められる。

本件道路は、現場図のとおり、南北に通じる片側一車線のアスフアルト舗装された直線道路であり、前方の見通しは良く、道路の明るさは、夜は暗く、交通規制は終日駐車禁止であり、速度制限は時速五〇キロメートルである。

原告車は、本件道路の避難所に斜めの位置で、原告車の右前部が北向車線に八〇センチメートルはみ出す状態で停車していた。

本件事故後の原告車の破損状況は、右側運転席ドアの扉の角、地上〇・九乃至一・〇九メートル部分が凹損壊し、ドア部の下部弓状のステツプ部の地上〇・五六乃至〇・八メートル部分に擦過痕が認められた。

また、原告車はエンジンが始動しなかつた。

被告車の事故後の破損状況は、左前部フエンダー、方向指示器部分が凹損壊し、フロントガラスが円型状にひび割れし、ボデー、左ドア付近の屋根に擦過痕が認められた。また、左側ドアミラーの付け根には紺色の繊維が付着していた(乙一)。

事故後、本件道路には現場図記載の〈a〉地点にポケツトベル、〈b〉地点にタオル、〈c〉地点には靴がそれぞれ遺留されており、亡敏和は〈ア〉地点に倒れていた。

亡敏和の着ていた衣服の状況は、上衣は長袖ハイネツクシヤツで、前面は、左右両手部分及び右脇腹部分にかけて鋏様のもので裁断され、背部は、背中付近に直径一×二センチメートル大のほころびと破れ、右下から一二センチメートル付近に直径一×一・五センチメートル大の破れ及び左下付近に直径一二センチメートル×一一センチメートル大の一部ほころびを残し、右腕及び左腕部にオイル様のものが付着していた。ズボンは、左腰部分に八×四センチメートル大、背面の腰部に一×二センチメートル大に引き裂かれた状態に破れており、ズボンベルトは、バツクル部分から引きちぎれた状態であつた(甲一〇)。

亡敏和は、頭部外傷、腹部外傷、肋骨及び下腿骨骨折の各傷害を受け、大津赤十字病院にて救急措置を受けたが、右病院搬送時はすでに意識はなく、平成三年六月二九日〇時一四分ころ死亡した(甲二)。

2  亡敏和は、桃谷運送店(代表者金田寛)に勤務し、原告車を運転して金沢に向かう途中であり、本件道路の避難所に停車したのは、停車位置や、事故後実況見分の際に原告車のエンジンが始動しなかつたことから、原告車に何らかの故障が生じたものと推測される。

原告の着衣の上衣の両腕及びズボンにそれぞれオイル様のものが付着しており、右オイル様のものの付着からして、当時亡敏和が原告車の故障を修理していたものと推測される。

さらに、被告らは亡敏和が飲酒酩酊していたと主張するが、亡敏和は、血液中のエチルアルコールの含有量が一ミリリツトル中一・三八四ミリグラムであつて(乙四)、微酔の状態であり、被告主張のような飲酒酩酊の状態ではなかつた。

3  被告らは、山科にいる被告寳田の先輩に会うために、被告開原所有の被告車を被告開原が運転して被告寳田を迎えに行き、途中で運転を被告寳田と代わつたが、道を間違えて西大津バイパスに乗つたので同バイバスの終了地点でUターンしようとして本件道路に至つた。そのため、被告らは訪問先の先輩に、行く先の方向を訊ねようとして電話ボツクスを探しながら進行していた。被告寳田は、現場図〈1〉地点で原告車を見て原告車の存在に気づいていたが、助手席の被告開原が〈2〉点で電話ボツクスを見つけたと言つたことから、被告寳田は被告車を避難所の方に寄せて停車させようとして被告車を避難所の方に寄せたが、被告車と余りに接近していたことや、後続車があつたことから停車できないと考え、走行車線に戻ろうとして、原告車の右ドアに接触させた。

4  被告らは、衝突直前まで原告車の右ドアが開いていなかつたと本公判廷で供述しているが、被告らが衝突直前には避難所の電話ボツクスに気を奪われていたことと、被告寳田が後続車を気にして、避難所から走行車線に被告車を戻すときに後方を見ていて前方の注意を怠つた可能性があることからして、被告らの右供述は客観的事実に合致するものとは認め難い。

また、被告らは、亡敏和が酒によつて原告車から転げ落ち、被告車と衝突したと主張するが、前記のとおり亡敏和の酩酊度は軽く、被告ら主張の様な状況が発生すると推測することは困難であり、またそのような立証もなされていない。

5  本件各証拠から合理的に推察される事故態様としては、亡敏和の傷害が頭部、腹部、助骨及び下腿と全身に及んでいること、被告車の左ドアミラーの付け根の辺りに繊維片が付着していたこと、亡敏和の衣服の損壊状況、原告者の右ドア部分の破損の状況及び被告車の左前部分の損壊の程度からして、亡敏和が、原告車から降車してドア付近にいたところ、被告車の左部分と接触し原告車のドアと被告車とに挟まれる様な状態で衝突されたものであると認められる。

なお、原告車は、避難所のところに前記認定のとおり駐車していたものであるが、被告らが当時原告車には駐車灯及びハザードランプもついていなかつた、と主張しており、右の点については、被告らの右に沿う供述があることや、原告車に故障が生じていたことから、被告ら主張の事実を認定することができる。

二  過失、過失割合

以上の事実認定によれば、被告寳田は、被告車を運転して本件道路を進行する際に、避難所にある電話ボツクスに気を奪われ原告車の方向を充分に注視せずに進行し、原告車の右ドア付近にいた亡敏和と衝突し死亡せしめた過失があり、他方亡敏和には、原告車を避難所内から八〇センチメートル程はみ出して駐車し、かつ駐車灯及びはザードランプをも点けずに危険回避の措置もとらず、被告車が進行してくるにもかかわらず右ドアを開けた危険な状態で走行車線上に居たという過失がある。

右の亡敏和と被告寳田の過失割合は、亡敏和が四〇パーセントで、被告寳田が六〇パーセントである。

三  損害額(括弧内は原告らの請求額である。)

1  治療費(四万四六九五円) 四万四六九五円

亡敏和の治療費については、四万四六九五円であると認められる(甲六)。

2  文書料(三〇九〇円) 三〇九〇円

文書料については、三〇九〇円であることが認められる(甲七)

3  逸失利益(四二六八万三九〇〇円) 四二六八万三〇七三円

亡敏和は、本件事故前は桃谷運送会社に勤務し、事故前三カ月の平均給与は三〇万六〇〇〇円であり、賞与については、平成二年度は八月分が一一万一〇〇〇円、一二月分が一五万円一〇〇〇円であるので(甲四、五)、逸失利益の算定については、一年間の収入を右合計額である三九三万円四〇〇〇万円を基礎として、生活費控除を三〇パーセントとし、亡敏和は事故時四三歳であつたので六七歳までの新ホフマン係数を乗じて損害の原価を算定すれば次の算式のとおり四二六万円三〇七三円となる(小数点以下切り捨て、以下同じ。)。

3934000×0.7×15.4997=42683073

4  慰謝料(二四〇〇万円) 二四〇〇万円

亡敏和の死亡慰謝料としては、二四〇〇万円が相当である。

5  葬儀費(一二〇万円) 一二〇万円

亡敏和の葬儀費としては、一二〇万円が相当である。

6  小計

以上損害額合計は、六七九三万〇八五八円となる。

四  過失相殺

前記認定したとおり、亡敏和の過失は四〇パーセントであるので過失相殺すると損害額は四〇七五万八五一四円となる。

五  損害の填補

原告らは、自賠責保険から三〇〇〇万五一五五円、被告寳田より四万九三三〇円、労働者災害補償保険法に基づく保険金のうち葬祭料として九万八七四〇円、亡敏和死亡後に労災保険年金一八三万〇〇五〇円(甲一一の二乃至五)が支払われており、右金員は損害の填補であるので控除し、遺族特別支給金三〇〇円については、本来の保険給付として支給されるものではなく、労働福祉事業の一環として給付されるものであることから控除せず、前記填補金額合計三一九八円三二七五円を前記認定の損害額から差し引くと損害残金は、八七七万五二三九円となる。

六  相続

原告らはいずれも亡敏和の相続人であることが認められ(甲一二)、原告吉中良子亡敏和の損害賠償請求権の二分の一、原告吉良啓、同吉中和彦は、各四分の一ずつ相続した。

七  弁護士費用

原告の請求額、前記認容額、その他本件訴訟にあらわれた一切の事情を考慮すると、弁護士費用としては八八万円が相当である。

第四結論

以上によれば、原告吉中良子の請求は、被告らに連帯して金四八二万七六一九円及びこれに対する平成三年六月二八日より支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で、原告吉中啓及び同吉中和彦の請求は、被告らに対して連帯して各金二四一万三八〇九円及びこれに対する平成三年六月二八日より支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で、それぞれ理由があるのでそれを認容し、主文のとおり判決する。

(裁判官 島川勝)

交通事故現場図

〈省略〉

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